こんにちは。桜田紋吉です。体力の衰えを感じる日々ですが考えてみると昔からいつも疲れていたような気もします。全く疲れが無い状態って俺の人生であったのだろうか?
では本題へ・・・
前回のブログ→懺悔【前編】 - 振り返ればオアシス!
とにかくシャレにならない『島田さん』という男に困り果ててしまった俺は超絶的に簡単な軽作業のみを彼に頼んでいた。
マジで小学生の職場体験でやらせるような作業だけを彼にさせていた。
『じゃあ今日はコレをさせてみるか・・・』
その日は
タンクの中の酒が完成間近のやつに米を入れる作業をやってもらおうかと俺は考えた。
入れる米の量は少量だし
米が入っている容器にタンク番号を書いた紙を入れておけば
タンクを間違える心配も無し。(酒蔵には何本もタンクがある)
『コレだったら1人でも彼は大丈夫だろう』
と完全に俺はホッとしていた。
で
島田さんに頼んだ。
桜田「そこに何個か容器がありますよね?その中に米が入っているのでタンクの中に米を入れて下さい。」
島田「・・・。」
桜田「で、容器の中にメモ紙があって何番のタンク入れればいいのか書いてるので。」
島田「・・・。」
桜田「分かりました?」
島田「すすいません。」
桜田「いや・・・分かったんですか?」
島田「分かりました。」
桜田「お願いします。」
30分ほど経って現場を見に行った。
さっきの容器が並んでいる・・・。
容器の中身は・・・
空っぽだ。ちゃんとやってくれたようだ。
『よかった・・・。謎に嬉しい・・・。』
俺は妙にテンションが上がり近くにいる島田さんに話し掛けた。
桜田「島田さん!タンクに入れてくれたんですね!ありがとうございます!」
島田「いや・・・すいません。」
桜田「いやぁー・・・しっかりやれるじゃないですか!」(誰でもやれる)
島田「・・・。」
桜田「じゃあ容器を洗って下さい。メモ紙は捨てるので俺に渡して下さい。」
島田「・・・すいません。」
桜田「ん?もうメモ紙は捨てました?特に必要じゃないんで別にいいですよ。」
島田「すいません。」
桜田「・・・ん?」
なーんか変な予感がした。
島田さんから『何かを隠そうとしている雰囲気』が滲み出ていた。
桜田「・・・どうかしました?」
島田「いや・・・紙・・・」
桜田「紙?メモ紙ですか?」
島田「すすいません。」
桜田「ん?・・・まさか!?」
俺は急いでタンクの横にある脚立を登り
タンクの中身を上から確認した。
そこには驚きの光景があった・・・
なんと・・・
タンクにメモ紙が浮かんでいる。
完成間近の米と水しか入っていないタンクにプカプカと俺の字で『XX番』って書いてある紙が浮かんでいるぞ!
ちゃんとメモ紙に書いてある番号のタンクに米を入れているようだな。よしよし。
・・・ってバカ野郎。
・・・え??まさか米を入れたタンク全部にメモ紙が浮かんでいるのか!?
俺は米を入れたであろうタンクを全部チェックした。脚立を使って上から覗いた。
見事にメモ紙が浮かんでいた・・・。
米を入れたであろうタンクすべてにメモ紙が浮いていた。すべてに。
全部ちゃんと番号の通りに入れてるじゃん。偉い偉い。上からでもメモ紙に書いてある番号が見えるよ。ちゃんと入れてるね!
・・・ってバカ野郎。
俺はさすがに目眩がした。
マジか!?メモ紙まで投入する発想ないって俺には!その発想は無い!
じゃあさ!
子供の頃に家に帰ったらさ!母ちゃんが作った『おにぎり』がテーブルの上に置いてあってさ!
その横にメモで
『おにぎりはレンジで温めてから食べてね』
って書いてあったりすることあるじゃん!
でもさ!!!
そのメモまでレンジには入れないだろ!!!
メモまでチンしないじゃん!!!!!!
それぐらいは当たり前じゃん!!!!!!
そもそも!!!!!!!
日本酒って人の口に入る飲み物なんだよね!
それなのに『隠し味は【紙】です』ってなるわけないよね!!!!!
人の口に入る物に『紙』を使用する料理も飲み物も世の中に存在しないだろ!!!!
なーんでメモ紙まで投入しとんじゃい!!!
桜田「・・・メモ紙まで何で入れた?」(もう敬語すら使わなかった)
島田「すいません。」
桜田「いや、『すいません』はもう言わなくていいから。何で入れた?」
島田「・・・。」
桜田「何で?どう考えても違うだろ?」
島田「・・・はじめてなので。」
桜田「ん?『はじめて』って何が?」
島田「酒造りに参加するの初めてなので。」
・・・この言葉で俺はカチンときた。
言い訳にしてはレベルが低過ぎたからだ。
『ボーッとしてたら紙まで入れた』の方が全然マシ。
『初めてやることだから』って理由になっていない。
じゃあ誰しも初めての時にはメモ紙を投入しちゃうんかいって話になるから。100%投入しないだろ。
気付いたら俺は・・・
島田さんの頭を強く叩いていた。
島田さんが「初めてなので」って言い終わった瞬間に反射的に手が出てしまった。
イライラがピークを超越し爆発した。
桜田「もういい。どっか行ってくれ。」
俺は島田さんが近くにいるだけで再び叩きそうな自分が嫌で島田さんに俺から離れるように言った。
するとそこに・・・
島田さんより半年前に採用された20歳のアルバイト君がやってきた。(前回のブログにも少しだけ登場)
アルバイト君「どうかしたんすか?」
桜田「・・・タンクの中、見てみ。」
アルバイト君「タンクの中?」
脚立を登りタンクの中を確認しに行ったアルバイト君。
アルバイト君「・・・うわっ!最悪。どうやって取りましょう?」
桜田「・・・どうしようかねぇ。」
アルバイト君「とりあえず長い棒を探してきます!」
桜田「もし棒があったら先端から数メートルは熱湯で消毒しといて。変な菌が入ると面倒だから。」
アルバイト君「はい!・・・正社員の尻ぬぐいをアルバイトがやるんだもんなぁー!」
アルバイト君は島田さんに聞こえるように嫌味を言い放ち長い棒を探しに行った。
島田さんは相変わらず天井を見上げていた。
俺は心に誓った。
『もう知らん』と。
島田さんには悪いが相手をしていられない。
俺は仕事は教えられるが介護は出来ない。
どう考えても変だ。島田さんは変。
絶対に何か重大なことを隠している。
次の日から俺は島田さんとは挨拶程度の絡みしかしなくなった。
「とりあえず手伝ってほしそうな人を探してそこで作業の手伝いをして下さい。」と
どっかのタイミングで本人に伝えた。
その日から
島田さんはずっとウロウロしているか
ボーッと天井を見上げているかだけの状態になっていた。
誰しもが島田さんと一緒に作業をすることを拒否した。
とんでもないミスをする可能性が高いので手伝いすら勘弁ってことだ。
そして・・・
ついに社長も
「島田くんは毎日5時(定時)になったら帰ってもらって。いても邪魔だからさ。」
なんて言うようになっていた。
こうやって文章にすると『島田さんへの対応は酷かったなぁ』と感じはするが
当時はマジで本当の本当にお手上げ状態であった。
で
とうとう事件が起こる・・・
ある日の夕方・・・
5時半ぐらいだったと思う。
アルバイト君に呼び止められた。
アルバイト君「桜田さん!島田って人かなりヤバいっすよ。」
桜田「え?今さら?前からヤバいでしょ。」
アルバイト君「いやいや!そうじゃなくて!さっきキレられたんですよ俺!」
桜田「えっ!!!!!」
アルバイト君「アイツ(島田さん)がまた棒立ちしてたんすよ。それで・・・」
アルバイト君は島田がキレた様子を話してくれた。
まとめると・・・
通路の真ん中で棒立ちしていた島田さんをアルバイト君が
「邪魔!どいて!」
と怒鳴ったら・・・
いきなり島田さんが
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
と叫びながらアルバイト君の胸ぐらに掴みかかってきたとのこと。
で
学生時代に柔道か何かを習っていたアルバイト君は反射的に島田さんを投げ飛ばしてしまったと。
で床に倒れた島田さんを見て
『うわっ・・・投げてしまった・・・』
なんて思っていたら
島田さんがスッと立ち上がったらしい。
『また叫びながら胸ぐらを掴むのか?』
とドキッとしながら待ち構えていたら
アルバイト君とは逆の方向へテクテクと歩き始めたそうだ。
アルバイト君が「どこ行くんだよ!?」と声を掛けてみたら・・・
島田「え?トイレですけど?」
とマジで普通の表情で島田さんが答えたと。
アルバイト君はゾッとして何も言えずに立ち尽くした・・・と俺に話してくれた。
・・・怖いね。単純に怖いね。
あれか?突発的に人を刺したりしちゃうタイプか?
それとも仕事を与えられなくてストレスが爆発したのか?・・・ってそれは無いな。
仕事を覚えようという雰囲気ゼロの人間が仕事を与えられないって思うわけない。
この『島田さん胸ぐら掴みかかり事件』は一瞬で酒蔵で働く全員の耳に入り
とうとう社長から直々に島田さんに対し「ちょっと話がある」と近所の定食屋で社長と島田さん2人の話し合いが行われた。
で
翌日・・・
相変わらずではあるが島田さんはいつもと同じ様子だ。
定食屋で社長から何を言われたのか
どんな指示が出たのかさえ不明だ。
社長の性格からして『昨日こんなことを話した!』という報告も無いだろう。
と
思っていたら・・・
社長が朝イチで「やっぱ島田くん変だよ!」と俺に言ってきた。
桜田「どうしたんですか?」
社長「昨日さ、定食屋に島田くんと行って少し説教でもしなきゃダメだなって思ってさ、小言を島田くんに言っていたわけよ!」
桜田「・・・はいはい。」
社長「そしたらさ!俺が話している途中に島田くんが「すいませーん!」って店員さんを呼んでさ!」
桜田「えっ・・・」
社長「「お水のおかわり下さい」って言ったんだよね・・・。」
桜田「うわっ・・・。」
社長「いやぁー・・・もうね・・・お手上げだから。」
桜田「凄いですね・・・。」
社長「だから今月末で辞めてもらうことにしたから!本人にも伝えてあるから!」
桜田「・・・えっ!クビですか!?」
社長「まぁそうだね。」
ある程度は予想していたが案の定、島田さんはクビを言い渡されていた。
で
翌月から島田さんがいなくなった・・・。
・・・これで島田さん伝説は終わりだ。
なーんて思っていたら
どうやら
島田さんの母親が酒蔵に乗り込んできたらしい。
母親の対応をした社長が言うには
島田さんの母親は
『自分の息子が普通に仕事が出来ているのに急にクビを言い渡された』と思い込んでいるようで
しかも
『息子は酒蔵でパワハラやイジメを受けたと話している!場合によっては訴えるぞ!』
と興奮状態だったようで
イチから説明するのが大変だったと社長は嘆いていた。
そして
社長が最後に俺に・・・
「桜田君がちゃんと指導していたら、こんなことにはならなかったのにぃ」
と冗談半分で言ってきた。
「おまえがアイツを連れて来たのが間違いの始まりだったんだよボケ」
と言いそうになった。
(確かに島田さんの母親が言う通り、俺達がやったのはパワハラ&イジメだったのかも。と思うと同時に、逆にどうすれば彼を普通に働けるようにできたのか今でも謎だ。それと島田さんがクビになった後に20歳のアルバイト君が正社員の【杜氏見習い】に昇格し頑張っていた。が数年後に彼も酒蔵を急に辞めた。あの酒蔵で働いていた若者は色々と精神が不安定な人間が多かったのも事実)